4. 紙衣の産地


○ 概説

 さて江戸時代に於いては、どの地域で紙衣が製造・販売されたのであろうか。まず江戸初期の俳人松江維舟が編んだ『毛吹草』(寛永十五年編、正保四年刊)は俳人の作法書であるが、句作に関わる言葉や資料なども事細かに書かれていて、江戸初期の名物を知るのに格好の文献となっているが、この中から諸国物産の紙子の類を挙げてみると、  

山城畿内の「素紙子」
  攝津の「久宝寺紙子」
  駿河の「安倍川紙子」
  陸奥の「紙布」
  安芸の「広島紙子」
などである。『毛吹草』より五十年経た後の元禄五年(1692)版の『諸国万買物調方記』にも諸国名物紙子の類が次のように挙げられている。  
山城之分畿内五ヶ国 つくり紙子
   摂津之分 久ほう寺町にかみ子
   駿河国之分 あべ川紙子
   陸奥国之分 紙布
   安芸国之分 広島かみ子
   肥前国之分 紙ふすま

 しかし奥州紙布や久宝寺紙子など同じ記述が多いことより、この書は『毛吹草』を参照して書かれたものであることは明らかである。更に元禄一〇年(1679)刊の『国家万葉記』や、さらには同十一年刊の『増補日本鹿子』にも一部に同一の記述が含まれている。  
大坂  紙子  渋紙   久宝寺筋にて作る
   駿河国  紙子 安倍川と云所より出る  しづはた紙子共いふ也
   陸奥  紙布 同所より出る奉書をよりて織りたる物也
   安芸国  紙子 ひろ嶋にて作る也
 寺島良安によって正徳二年(1712)に成立した『和漢三才図会』(右図)は日本で最初の図版入り百科事典として名高いものであるが、このなかの諸国名物の「衣類」の条に「紙衣」の項目があり、そこには紙衣の着物の図入りで、産地と製法が簡単に述べられている。そこに見えている産地は  
駿州安倍川賤機紙子
   奥州白石紙子
   紀州華井紙子
   新宮紙子
   大坂松下一閑紙子
である。宝暦四年(1754)刊『日本山海名物図会』には
大坂松下一閑紙子
   美濃十文字
   播磨紙子
   肥後八代紙子
 また天保九年(1838)刊の『大日本地名便覧』中には、  
大和の竜田合羽
  陸奥の紙布
   出羽の油紙(諸国へ出す)
   安芸の紙袍
   備後の合羽
 がそれぞれ挙げられている。このほか各地域についての文献などを調べたおおよその結果、奥州白石紙子・駿州安倍川賤機紙子・美濃十文字・京紙子・紀州華井紙子・大坂紙子・播磨紙子・安芸紙子・伊予紙子・肥後八代紙子の計十ヶ所が、主な紙子紙及び紙子の生産地であったと考えらる。

 これより以降はここで挙げた十ヶ所の紙子産地についてそれぞれ詳しく解説してみようと思う。



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